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monthlyLetter
No.003

おとといの大宮

 歌手の森山直太朗さんが、母である森山良子さんに尋ねました。「これまでで一番のコンサートは?」

数多くの有名ミュージシャンとの共演はもとより、カーネギーホールのステージにも立たれています。直太朗さんは、どんな場面の誰との共演話が聴けるのだろと期待して待っていました。

少しの沈黙のあとの答えは、こうでした。

「一番良かったコンサートは、おとといの大宮ね」直太朗さんは、ズッコケていましたが、私はその言葉に胸を打たれました。

過去の栄光ではなく、つい昨日までの自分を更新し続ける言葉と姿勢だからです。「まだ一年後も成長できる」と、あの屈託の無いチャーミングな笑顔で話されていました。

森山良子さんキャリアならば、2時間くらいのコンサートは過去のご自分の豊富なストックからチョット引き出せば、聴衆を魅了するくらい簡単なことでしょう。

77歳のいまも挑戦は止まりません。昨年、ジャズに本格的に臨むためにニューヨークで新たな歌唱法を学ぶ“短期留学”を敢行し、その経験を反映させた新作『Life Is Beautiful』を発表しました。

学び直しをすぐに舞台へ持ち込み、現在も(2025年9月時点)〈Life Is Beautiful〉ツアーで全国を駆けています。年齢を重ねるほど「いま」を最良にする。

その姿が「おとといの大宮」というフレーズの説得力の源泉なのでしょう。

この姿勢は、私たちビジネスパーソンにもそのまま通用します。

昨日の資料を少し直して済ませる――そんな惰性は、相手にすぐ見抜かれます。

大事なのは、“今日の相手”の前で自分を更新すること。具体的には三つの習慣がおすすめです。

第一に、打合せやプレゼンの「目的は何か、相手に何を持ち帰ってもらうか」を一行で言語化する。

第二に、前回の反応データを三つだけ振り返る(どこで質問が増えたか、どこで滞ったか、何が刺さったか)。

第三に、小さな仮説を一つだけ試す(冒頭の問いを変える、順番を入れ替える、事例を差し替える)。

そして終わったら、三つのふりかえりを30秒で。「何がうまくいったか」「なぜか」「次回やめる/始めることは何か」。このミニサイクルが、明日の自分を確実に更新してくれます。

大宮での“おととい”が最良だったとしても、明日はさらに良くできる。その積み重ねが、いつしか周囲の信頼を生み、成果を引き寄せます。

さあ、あなたの「おとといの大宮」はどんな場面でしょう。

今日の一歩で、明日の自分を塗り替えていきませんか?