シャンパンタワーをご覧になったことがありますか。グラスを何段にも積み上げ、一番上にシャンパンを注ぐと、溢れた泡が下へ下へと流れていきます。実はこれ、人生やビジネスを考えるうえで、とても大切な比喩です。
「シャンパンタワーの法則」は、マツダミヒロさんとの出会いで学ぶことができました。
一番上は「あなた自身」です。二段目はご家族、三段目は従業員、四段目はお客様、五段目が地域社会を表します。もし一番上の自分のグラスが空っぽであれば、下の段には何も流れません。自分を犠牲にしてまで顧客を優先する――それではどこかで必ず無理が生じ、組織も人生も持続できなくなるのです。
ビジネスパーソンは何かと自分を後回しにしがちです。「家族より仕事」「自分の時間より顧客の要望」。しかし、本当にお客様を大切にしたいなら、まず自分を整えることです。体調を守る、心を休める、学びを続ける。そうして満たされた状態でいるからこそ、家族を支え、社員を大切にでき、顧客や地域へと循環が広がります。
私が経営に携わっていた頃、「顧客第一主義」を掲げながら社員が疲弊して辞めていくという経験をしました。そこから学んだのは、社員満足(ES)が整ってこそ顧客満足(CS)が生まれるという当たり前の真理でした。
社員が会社に不満だらけで、お客様に満足してもらえるような仕事をするでしょうか。答えは明らかです。では、社員の満足度を上げるには何が必要でしょうか?
給料や福利厚生の改善はもちろん大切ですが、それ以外にもできる事はたくさんあります。
実際、ある地方の小売チェーンでは、経営危機に陥った際に「お客様第一」を掲げすぎて社員の負担が限界に達し、多くの退職者を出しました。サービスの質も落ち、顧客離れが加速し、悪循環に陥ったのです。
一方で別の企業は真逆のアプローチを取りました。経営者がまず「社員を一番に大切にする」と宣言し、休日制度を整え、職場での声かけや感謝を徹底しました。
驚くことに、売上が急に伸びたわけではないのに、顧客からの支持が広がり始めたのです。店に笑顔が戻り、自然とサービスの質が上がったからです。最終的には「地域で一番働きたい会社」と言われるようになり、人材の定着率も売上も改善しました。
この二つの事例は、「ESなくしてCSなし」を雄弁に物語っています。社員が誇りを持って働ける環境をつくることが、結局は顧客満足につながるのです。
人は「大切にされている」と感じたときに力を発揮します。逆に、軽視されていると感じれば、どんなに待遇が良くても心は離れていきます。だからこそ、社員を満たすことは、顧客を満たすことへの第一歩なのです。
ここで少し考えてみてください。あなた自身のグラスはいま、どれくらい満たされていますか? 100%でしょうか、それとも半分くらいでしょうか。もし「最近は空っぽかもしれない」と感じるなら、まず自分を満たす一歩を選んでください。
方法は大きなことでなくて構いません。早めに休む、散歩をする、家族とゆっくり食事をとる、信頼できる仲間と語る。本を読む時間を持つのも良いでしょう。自分を大切に扱う小さな行動が、周囲への循環を変えていきます。
シャンパンタワーは一気に完成するものではありません。注ぎ続けることで少しずつ広がっていきます。同じように、日々の小さな「自分を満たす習慣」が、やがて家族や社員、お客様、地域へと確実に届いていきます。
まず自分を。そして大切な人たちへ。
シャンパンタワーの法則は、人生にもビジネスにも通じる普遍的な知恵なのです。
今日は、あなたはどうやって自分を満たしますか。