私は、以前北陸地方の書店に出向を命じられ、経営企画室長として2年間働いていましたが、当時、経営の知識も経験も乏しかった私にできたのは、もしかしたら駐車場の掃除ぐらいだったかもしれません。
元々経営不振だったその書店は、決算書を読まない経営と近隣への競合店の出店で、成す術もなくある年の春に倒産してしまいました。書店人としてとても優れた方々が、売り場を去っていかざるを得ませんでした。経営に全く不勉強だった当時の自分の不甲斐無さを思い、桜の季節になると今でも私は申し訳ない気持ちで、胸が締め付けられる時があります。
今でも毎年、各地で多くの本屋が惜しまれながら潰れていきます。この本は、そんな消えていった街の本屋たちへのレクイエムです。
言うまでもなく、この本のストーリーは、全くのフィクションです。しかし幾つかの「虚」と同時に、本屋の未来を託せる光となる「実」も書いてあります。
文中に出てくる団体や人物は、実際に存在するものもあったり、私の想像の産物だったりします。どこが「虚」でどこが「実」かは、読者の皆さんでお楽しみください。例えるなら、「○○特急殺人事件」のようなストーリーで、特急電車の名前や観光地は実在しても、殺人事件や登場人物はフィクションであるのと同じ構図です。
後略